銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2008.01.01

最も腐った社会主義国

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 ちょうど1年前、平成19年の始め頃、中日ドラゴンズの福留孝介外野手の年俸交渉がマスコミを賑わしていた。4億円を要求する福留に対し、球団は、「ない袖は振れない」という姿勢を貫いて交渉は難航し、結局、3億8000万円余りで妥結したらしい。そして、シーズンオフにFA宣言をした福留は、シカゴカブスと契約を交わした。4年契約で、年俸総額は4800万ドル(約53億円)と報じられている。
 イチローも、松井も、松坂も、城島も、黒田も、みんなメジャーに行った。他方、昔は、毎年のように評判になった大物外人選手の出稼ぎのための来日がまったく見られない。
 「一流選手が、みんなメジャーに行ってしまう。」と嘆く論調はよく目にする。でも、その原因には誰も触れない。なんで誰も言わないの?そんなのはっきりしてるのに。それは、この国が貧乏だからだ。貧乏だから、野球選手に払う金がないのだ。
 15年前の1993年、この国は一人当たりのGDPで世界第2位になった。と言っても、1位は人口50万人のルクセンブルクだったから、主要国中では日本が第1位だった。だから誰もが、この国はカネ持ちだと思っていた。21世紀は「アジアの世紀」なんて言われて、その中心が日本だと信じていた。
 そして、この国の人たちは、相変わらず、この国が豊かだと思っているらしい。
 でも、それは大きな間違いだ。2006年の一人当たりGDPは世界第18位。3位だった2000年から6年連続で後退した。先進7カ国で日本より低いのはイタリアだけだ。
 だけど、こんなことはまったく話題にもならず、この国では、「格差社会」なんて言葉が流行してる。
 諸外国に比べれば、この国の貧富の差なんて格差と呼ぶに値しないことは、ジニ係数の国際比較とか、その他各種の統計上はっきりしているのに、そんなこと口にしようものなら袋叩きにあう。実際、小泉さんも、この点ではボロクソに批判されていたもんね。
 まあ、その点は百歩譲って、一定程度の差が存在するとして、それでも、現象を「格差」なんて言葉で表現すること自体、卑しいとしか言いようがない。
 この国はかつて「最も成功した社会主義国家」と揶揄された。そんな国にお住いの人々の性根は、首までどっぷりと社会主義に漬かってしまっているものだから、少しだけ金を持ってる連中の存在それ自体が気に入らないようで、それで、「格差」なんて言葉にみんなシックリと来るというか、納得感を持つのだろう。でもね、仮に貧富の差があるとしても、アップサイドの存在は問題じゃないはずだ。だって、一部に裕福な人がいても、残りの人々が普通の不自由ない暮らしをしているなら、問題視される点は何もないでしょ。議論されるべきは、下層の人たちの貧困問題とその人達に対する福祉政策だけのはずだ。上流層をねたんだり、そねったりする必要はゼーンゼンないはずで、要するに、現象を「格差」なんて言葉で表現するのはまったく見当違いなわけ。
 「格差」なんて言葉が流行ることそれ自体が深刻で、こんな言葉が世相を表す言葉としてピッタリという感覚を持つ空気が蔓延してる限り、そんな国の行く末は真っ暗だ。だって、社会主義国家なんだもん。
 小さな政府を目指す改革がほんの少しだけ進むと、直ぐに疲れちゃって、不平不満を言いつのる声が高くなる。この国は、遠からず「最も腐った社会主義国」になるのだろう。
 ロンドンの地下鉄の初乗り料金を円に換算すると約1000円だ。この国の人々はあまりに貧乏で、気楽に電車にも乗れやしないんだ。