銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2009.01.01

銀座の紳士

 謹んで新春のお慶びを申し上げます。本年も、何卒、よろしくお願い申し上げます。

 というわけで新年を迎えたわけだが、昨年9月のリーマン・ショック以来、世は不景気で、誰も彼も景気の悪い話しかしない。私は、昼も夜も銀座にいるのだが、昼も夜も、ぱっとしない話が多い。
 昼間の弁護士業界では、就職難やリストラだけじゃなく、法律事務所の分裂の噂も聞こえてくる(うちの事務所の話じゃないよ)。もちろん、お客さんから持ち込まれる案件の方が遙かに敏感に世相を反映する。株式上場準備とかM&Aとか前向きな相談はめっきり減って、最近は、倒産とか解雇とか労働組合とか、後ろ向きなもの一色。
  夜の銀座も、とても深刻。と書こうと思って、確かに10月とか11月は、どの通りもどの店も閑古鳥が泣いている感じだったのだが、12月は、ボーナスと忘年会のシーズンで、例年とおりとは言わないまでも、まあまあの賑わいだった。さすが銀座だ。
  んで、先日、忘年会シーズンのまっただ中。夜の9時半頃、銀座の7丁目と8丁目の間の花椿通りと並木通りとの交差点、要するに銀座のクラブ街のド真ん中に、そのおじさんはいた。見るからに高級なスーツを着て、混雑した交差点に立ち、傘を使って交通整理をしている。近寄ってみた。おじさんは、クラクションを鳴らす車に向かって、持っていない笛を吹く真似をしてみたり、道を渡ろうとするホステスさんを大声で叱ってみたりしているが、まったく舌は回っていないし、完全な千鳥足。要するに、メチャクチャな酔っぱらいだ。面白がって見ているのは私だけでない。結構な数の銀座の客やクラブの黒服さんたちといった銀座の住人たちが、遠巻きにして、笑いながら、それでも「あーあー」なんて言ったりして、おじさんの見物をしていた。
  まだ夜の9時半だ。あのおじさん、昼の仕事は、景気が悪くって大変なのかも知れない。高そうな服を着てて、傘だってブランド物っぽいし、ちょっとした会社の経営者だったりするのかも知れないけど、倒産とか解雇とか労働組合とか、そんな嫌なことに頭を悩ませているのかも知れない。それで憂さ晴らしのためか、大量に飲んじゃったのかも知れない。そんなことをぼんやりと考えながら眺めていたら、おじさんは、歩道に上がって、花椿通りを中央通りの方に向けて歩き出した。面白いから、後ろをついていくことにする。おじさんは、ときどき立ち止まり、手にしていた傘を不思議そうに見つめ、ついでという感じで上空を見上げて、また、ふらふらよちよちとぼとぼと歩き出す。あのおじさんが、翌日、このことを覚えていないのは確実だなと思って後ろを歩いていたのだが、私も、約束の会合に既に遅刻していたので、仕方なく、そちらの飲み屋に向かうことにした。
  翌朝、私は、いつものとおり自宅のベッドで目を覚ましたが、前夜はあまりに酔っぱらってしまい、どのようにして帰宅したのか、まったく記憶にない。