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職務発明の諸問題
ビジネス法務12月号 01.12
弁護士 宮本 督
 技術者の「反乱」―今年(01年)8月、青色発光ダイオード(LED)の開発者が、開発当時の勤務先に対し、特許権取得等の対価として20億円の支払等を求める訴訟を提起した。企業組織内でされる発明に関する特許は誰のものか、その価値をどのように見積もるべきか、そして優れた発明をした技術者に企業はどこまで報いるべきか。顕在化しつつある企業と技術者との対立について解説したい。
〔職務発明〕
 発明は企業の組織内でされることが多い。そして、企業における従業員らの発明が、その企業の業務遂行と技術的に関連があり、かつ、発明の過程がその従業員の職務に含まれる場合、「職務発明」と呼ばれる。
 そもそも発明は発明者の特別の能力や努力によって生まれるものである。したがって、特許による保護やそれによって生ずる利益はすべて発明者に帰属するのが大原則とされている。しかし、職務発明については、企業は資金・設備などの投資により発明を誘導・補助しているという事情があり、発明をすることが従業員の任務であるという特別の条件のもとでされているため、企業と従業員とのそれぞれの役割、貢献度などを公平に比較衡量し、しかも産業の発達という公益的立場も考慮して、特許法には特別の規定が用意されている。

〔職務発明の法的取扱〕
 職務発明について特許を受ける権利は、事実上の発明者である従業員らに帰属することとされているが(※1)、職務発明について従業員らが特許を受けたときには、企業側はその特許権について通常実施権を有するとされている(特許法35条1項)。企業に無償の実施権を認めることによって、発明者である従業員との均衡が図られているということができよう。
 ただし、職務発明については、発明が完成する前でも、企業に特許を受ける権利または特許権を承継させること、専用実施権を使用者等のために設定することを予め契約あるいは勤務規則などで定めておくことが認められている(予約承継。特許法35条2項)。企業内の発明が当然に企業のものとされてきた背景には、この予約承継の制度の用意がある。しかし、予約承継によって、職務発明について、企業が特許を受ける権利または特許権の承継、専用実施権の設定を受けたときは、従業員は「相当の対価」の支払を受ける権利を有するとされている(特許法35条3項)。そして、この相当対価額はその発明により企業側が受ける利益の額(プラス要因)と、その発明がされるのに対して企業側が貢献した程度(マイナス要因)とを考慮して定められる(※2。特許法35条4項)。

〔企業の対応と技術者の反乱〕
 多くの企業では、この予約承継の制度が用意されている。しかし、「相当の対価」については、極めて低額に抑えられてきた。従業員技術者に対し補償金を支払う特許報酬制度は数十年前から運用されており、補償金は時代とともに段階的に引き上げられてきたが、現在でも、特許の申請時と登録時にそれぞれ数万円程度とされている例が多いという。これに加えて、特許を自社製品に適用したり他社にライセンス供与したりすることで、多大な利益を企業にもたらした“強い”特許の発明者には、特別に数十万円から数百万円が支払われるケースもあるが、これは、ごく一部に限られている。
 こうした待遇に疑問を抱く技術者が、ついには多額の補償金を求めて自分が勤めていた会社を訴える例は、80年頃からあるにはあったが、技術者も企業の多くも、“対岸の火事”としてこの問題を軽視してきた。しかし、風向きは変わりつつある。95年にオリンパス光学工業の元従業員が、98年には日立製作所の元従業員が、それぞれ古巣を提訴し、これに中村氏が続いた。
 これらの訴訟は、今なお継続中である。オリンパスのケースでは、99年4月に東京地裁が、今年5月に東京高裁がそれぞれ判決を下したが、これを不服とする従業員、企業ともに最高裁に上告した。日立製作所の件も、東京地裁で訴訟が進行している段階である。

〔社内規程の効力〕
 オリンパスのケースでは、元従業員には、同社の社内規程に従い補償金、報償金が支払われていた。同社は、この社内規程の定めを越えて、それ以上の支払いは認められない旨をいい、「今日、日本の多くの企業は、職務発明の会社への譲渡とその対価の支払をあらかじめ社内規則で定め、これに従った処理をしている。そして、オリンパスの規定は、当時の日本の主要企業の規定と比べても同等ないしそれ以上の水準を有するものであるから、これに基づく支払は、相当対価の支払と認められるべきである。」と主張し、企業の従業員に対する公平な処遇や、多くの特許を管理するための画一的処理の必要性を訴えていた。
 しかし、東京地裁・東京高裁は、ともに、この相当対価を社内規程により一方的に制限できないとした。そして、このオリンパスの主張に対しては、「日本企業の多くがこれまで社内規程により相当の対価の額を一方的に定め、どのような場合にもそれ以上の請求はできないとしていた実態があるとしても、それは強行法規(※3)に違反する取扱が事実上行われてきたことを示すに過ぎない。」と極めて辛辣な判決を下した。

〔相当対価の算定〕
 しかしながら、相当対価の算定については、裁判所はかなり控え目ともいわれる。
 職務発明の相当対価額はその発明により企業側が受ける利益の額(プラス要因)と、その発明がされるのに対して企業側が貢献した程度(マイナス要因)とを考慮して定められることは先述のとおりである。そして、オリンパスのケースで、元従業員は、自らの発明によってオリンパス社は23億円以上の利益を得ており、発明についての貢献度は、会社が60%、自らが40%と主張して、相当対価額は9億円以上と主張した(訴訟では、その一部の2億円のみを請求)。これに対し、東京地裁・東京高裁は、ともに、この発明によってオリンパスが受けるべき利益額を5000万円とし、貢献度を会社が95%、元従業員を5%と算定し、250万円を相当対価と認定し、社内規程に基づき支払済の21万1000円を控除して、結局228万9000円の支払いを命じるに止まった。
 この判決に限らず、表に過去の裁判例の概要を記載したとおり、従業員技術者の請求額と、裁判所の認定する相当対価額にはかなりの開きがあることは事実である。

提訴 判決 裁判所 被告 請求 判決
79年 83年12月 東京地裁 日本金属加工 58,400 1,700
81年 83年 9月 東京地裁 東扇コンクリート工業 12,400 8,400
89年 92年 9月 東京地裁 カネシン 30,900 12,900
91年 94年 4月 大阪地裁 象印マホービン 150,000 6,400
91年 94年 5月 大阪高裁 ゴーセン 16,000 1,600
95年 01年 5月 東京高裁 オリンパス光学工業 200,000 2,500
注) 請求額及び判決額は概数。単位は千円。

 これらの判決の妥当性についての詳細な検討は別の機会に譲らざるを得ないが、裁判所は、相当対価の算定にあたり、まず、発明によって企業の得た利益を算定し、次いで、これに対する企業と従業員の貢献度を認定して、これらを掛け合わせるという手法をとっている。例えば、発明によって企業は1億円の利益を上げたが、発明した従業員の貢献度は10%だから、相当対価は、1000万円であるという判断をする。そして、発明による利益の算定に際しては、発明の意義・有用性、特許権取得に至る経緯、特許が無効とされる可能性、発明の利用(実施)態様、他企業とのライセンス契約の有無・内容等々を考慮する。また、貢献度の認定にあたっては、発明がされるまでの企業や他の従業員らの協力・関与の程度、特許取得に至る経緯等の事情が考慮されている。

〔必要となる企業の対策〕
 オリンパスのケースは双方が上告しており、最高裁の判断に注目が集まっている。しかし、オリンパスが主張している、発明以前の技術者の就職時等にした約束や社内規程によって、企業側の定める相当対価の支払で事足りるという判決が下されることはないと思われる。
 ただ、だからといって、社内規程そのものを用意することが違法になるとか、無意味、不要ということにはなるわけではない。優秀な技術者がより報酬の良い企業に流れる傾向は、今後ますます強まるとも予想され、技術者の帰属意識とやる気を高揚するため手厚い待遇制度が必要となる。人材の流動化や能力主義の広がりに伴い、同様のトラブルは今後、増加が見込まれる。企業としての利益を図りつつ、技術者の貢献にどう応えていくか。優秀な人材を確保する上で重要なポイントとなるだろう。
※1 この点、原則的に法人など(使用者)を著作者とする職務著作の制度をもつ著作権法の取扱いとは異なるところである(著作権法15条)。
※2 職務発明の取扱いは各国によっても大きく異なり、たとえばフランスにおいては職務発明は企業に属するとされ(フランス特許法1条の3)、企業における職務と全く関係のない自由独立の発明については発明者に属するとされている。そして、両者の間の混合発明は企業と発明者との間で話合いで帰属を決め、企業に属するとするときには対価を支払うこととされている。
※3 契約等によっても変更できない法律の規定を強行法規という。当事者間の契約等で、法律の規定と異なる内容の定めをすることも一般には有効であるが、強行法規に反する契約をすることはできない。
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