銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

企業と法律

企業倒産

東京でスタートした新倒産手続
-「少額管財手続」の仕組と留意点
(経営者会報 '01.8)

弁護士 宮本 督

 企業の破産申立がされ、破産宣告がされる場合、裁判所は「破産管財人」を選任します。そして、選任された破産管財人は、破産会社の財産を換価して「破産財団」を作り、手続費用を差し引いて、債権者らに配当することとなります。
 破産管財人の職務は多岐にわたります。多数の支店・営業所等を有する大規模な企業では言うに及びませんが、一般の中小企業でも、在庫商品や什器備品を売却し、売掛金を回収し、所有不動産を担保権者らと交渉の上で売却することになります。また、破産宣告直前に不明瞭な資金の流出があるような事例では、それを取り戻すような手続を採ることも少なくありません。
 破産管財人のこのような職務に対する報酬の他、破産申立には、様々な費用がかかりますが、これらは、原則として破産申立を行う際に、申立人の責任で予め納付しなければなりません(予納金)。そして、裁判所としては、予納金によって破産管財人に対する報酬の最低限を確保することになります。
 全国の多くの裁判所では、次のとおりの基準で、予納金の金額が定められています。

負債総額 破産管財人選任事件
法人 自然人
5,000万円未満 70万円 50万円
5,000万~1億円未満 100万円 80万円
1億~5億円未満 200万円 150万円
5億~10億円未満 300万円 250万円
10億~50億円未満 400万円  
50億~100億円未満 500万円  
100億~250億円未満 700万円  
250億~500億円未満 800万円  
500億~1,000億円未満 1,000万円  
1,000億円以上 1,000万円以上  
破産予納金額

 しかしながら、このような高額の予納金を、破産申立に際して用意できない企業も多いのが実際です。そして、多くの中小企業では、会社の借入金について代表取締役である社長や、さらに、社長の奥さんまでもが保証人となっているケースが極めて多く、そうすると、例えば、負債総額が六億円の会社が破産申立を行う場合、併せて社長と社長の奥さんも破産申立をする必要がありますから、会社の予納金として三〇〇万円、社長と社長の奥さんの予納金として合計五〇〇万円の合計八〇〇万円を破産申立と同時に裁判所に納める必要があることになり(ただし、多くの場合、関連性のある事件として、このように杓子定規には取り扱わず、若干の減額が可能です。)、この他に、弁護士費用もかかるため、破産するのに一〇〇〇万円以上のお金が必要になり、破産したくてもその費用が出ないというケースも多いことになります。
 そのため、例えば、弁護士に破産申立の依頼があった場合でも、この手続費用が足りず、仕方なく、社長と社長の奥さんの破産だけを申し立てることで費用を節約し、会社は放置してしまうようなケースも少なくありませんでした。また、社長個人の破産申立だけを行うこともままならず、夜逃げをしたり、あるいは、「整理屋」や「損切り屋」と呼ばれるような者の介入を招いて、極めて不公正な倒産・整理手続が行われることもよく見られました。「休眠会社」と呼ばれる会社は、このようなかたちで、法律的な倒産手続を採らず、廃業したまま放置されている会社がほとんどです。

 しかしながら、近年の不況によって企業の倒産が激増したことから、裁判所も、このような事態を無視できなくなってきました。
 東京地方裁判所は、平成一二年から、自己破産申立事件について、破産法の範囲内で、できる限り手続の簡素化と迅速化を図るとともに、不動産所有の有無や負債額の多寡を問わずに、予納金を一律二〇万円程度とする(会社の破産と社長や社長の親族の破産の申立を同時に行う場合も、すべて併せて二〇万円程度)ことによって、多くの企業に、法律に従った倒産手続を採らせることを促しながら、管財業務にかかる時間と費用に関する問題を少しでも解消しようとする運用を開始しています。これが、「少額管財手続」です。
 この手続を利用できる会社は、[1]個人と同視できる会社で個人とともに法的清算をする必要がある場合(法人併存型)や、[2]ほとんど資産のない会社で代表者とは別に法的清算をする必要がある場合(法人単独型)に加えて、[3]若干の換価業務が予想される会社とされています。ただし、この手続を利用できるのは、弁護士が代理人となって申し立てる事件に限られているので、自ら破産申立を行う場合には、先述しましたとおりの負債総額に応じた予納金を納める必要があります。

 それでは、この手続を利用するにはどうすればいいのでしょうか。
 まず、破産申立を行うかどうか、また、その中でも少額管財手続を利用するかどうかに関わらず、資金繰の逼迫等の事情があって、倒産や、あるいは企業再建をはかることを視野に入れる場合、何をおいても、早目に弁護士に相談することが重要です。私の経験した案件の中でも、半年前でも三ヶ月前にでも相談に来てくれていれば、破産以外の方法も採り得たという例は枚挙にいとまがありません。また、もちろんケース・バイ・ケースですが、私が引き受けた事件の中には、銀行や信用金庫以外の貸金業者に対しては利息の支払い過ぎ等の事情があり、そのため、資金繰難と思うのは経営者ばかりで、弁護士が介入することにより返済が不要または容易になり、それだけで、倒産等の手続を一切経る必要のない例もありました。とにかく、すぐにでも弁護士に相談して下さい。相談が一日遅れることに、事態が悪化することを肝に銘じてもらいたいと思います。
 そして、弁護士からも、自己破産の申立をするしかないとアドバイスされる場合、自己破産申立にあたっては、先述したとおり、低額とはいえない予納金を納めるのが原則で、この少額管財手続は例外的な場合であることに留意しなければなりません。すなわち、先ほどもお書きしたとおり、「個人と同視できるような会社」や、「ほとんど資産のない会社」しか、この手続を利用できません。このような会社にあたるかどうかは、具体的で明確な基準が用意されているわけではないため、倒産手続に詳しい弁護士に相談するよりありませんが、税務上のメリットを考慮して、会社組織にして商売をしているような会社で、親族以外の正社員がほとんどいないような会社をイメージしてもらえばいいでしょう。
 ただ、例えば、不動産を多数所有しているので、上述した「ほとんど資産のない会社」にはあたらないと、初めからあきらめる必要はありません。所有している不動産も、多くの場合は、いわゆるオーバーローン状態(売却可能価額より、設定されている担保権の被担保債権額が上回る状態)にあるため、担保権者との交渉による任意の売却が難しく、このような不動産しかない場合には、「ほとんど資産のない会社」として取り扱ってもらえる場合も少なくありません。
 申立に要する書類等は、弁護士に相談してもらいたいと思いますが、裁判所への提出が最低限必要なのは、申立書、資格証明書(登記簿謄本)、破産申立を行う旨の取締役会議事録、債権者一覧表です。この他、弁護士への相談の際は、過去三年分程度の決算書類と、現在の資産目録(売掛金がある場合は、売掛先と金額の一覧表も含む。)も用意して下さい。
 弁護士費用ですが、これは、「ケース・バイ・ケース」といわざるを得ません。弁護士会の定める報酬規程によりますと、事業者の自己破産申立にかかる弁護士費用(着手金)は、「資本金、資産及び負債の額並びに関係人の数等事件の規模に応じて定め、五〇万円以上。」とされています。弁護士に対する不安感・不信感の一つに、弁護士費用の不明確さがいわれますが、弁護士ながら納得しないでもありません。ただ、極めて大雑把ではありますが、弁護士費用は、特別の事情のない限り、表1記載の負債額に応じて決められる標準の予納金額を一応の目安としつつ、これを上回ることはないと考えていただいて、ほぼ間違いないと思います。
 なお、少額管財手続を利用できるのは、以上のとおり、[1]「個人と同視できるような会社」や、「ほとんど資産のない会社」で、[2]弁護士が代理人として破産の申立をする場合ですが、もう一つ、重要な制限があります。それは、この制度が用意されているのが、現在のところ、東京地方裁判所しかないことによる制約です。破産の申立は、破産法上、本店所在地を管轄する裁判所に行うこととされていますので、本店が東京都外にある場合には、この手続を利用できません。弁護士が東京と大阪に集中してしまっていることから、破産管財人の引き受け手が不足気味であるという問題はありますが、一日も早く、全国の裁判所にこのような弾力的な運用が広まって欲しいものです。

 破産申立がされると、原則として、申立日の翌週の水曜日午後五時に破産宣告がされます。破産申立がされると、破産した企業の財産管理権等はすべて管財人に移り、破産を申し立てた方は、破産管財人の行う管財業務に協力しなければなりません。
 そして、債権者らに対しては、すぐに、その会社が破産した旨、破産管財人の氏名・住所、債権者集会の日時・場所等が連絡されます。債権届出の方法や期限も併せて通知されます。
 債権者集会には、ほとんどの場合、債権者の出席はありませんが、出席した債権者がいる場合、裁判所は、破産管財人に、破産会社の破産に至った経緯と、管財業務の内容の他、配当の有無について簡単な説明をさせています。

 破産手続がスピーディーに行われるようになったことは、債権者にとっても、貸し倒れ処理が即座に行えるというメリットがあります。法人税法基本通達により、破産会社に対する債権も、「その全額が回収できないことが明らかに…なった事業年度に貸倒れとして損金経理をすることができる」とされているだけで、要するに、配当がされる可能性が残る場合は、何年も、損金処理をできないままとせざるを得ませんでした。これに対し、三、四ヶ月で管財業務が終了すれば、この損金処理を早急に行うことができることになります。
 なお、他方、このように破産手続が簡便化したこと、また、昨年の民事再生法の施行も相まって、体力の弱い取引先が、安易に倒産手続を採ることを危ぶむ声も聞かれるようになりました。
しかし、視点をマクロに採るとき、このように足腰の弱い企業の倒産手続は、一刻も早く進められるべきで、これが遅れると、負債額が雪だるま式に増加するだけという場合が多く、手続が先延ばしにされることによる弊害の方が遙かに大きいと思われます。

 繰り返しになりますが、いずれにしても、倒産ないし企業再建のための方策は、弁護士への相談が欠かせません。弁護士への相談が遅れ、例えば、その間に、取り立ての厳しい一部の債権者に対してだけ優先的に支払をしてしまったりする場合には、事態は悪化するばかりです。
 知り合いに弁護士がいないような場合には、地元の弁護士会が行っている法律相談を受ける等の方法を一日も早くとるようにして下さい。