銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2001.11.15

大切な人との別れ(悲しみは波のように)

 誰でもいい。同情して欲しい。ただいま、禁煙中である。
 先週、倒れた。
 友達の医者に電話で相談して、症状を説明した。北海道生まれの大先生曰く。お前さ、バカかい?一緒に飲みに行くとさ、何本タバコ吸うのさ。そりゃあさ、やめないとさ、直、死ぬさ。あたりめえさ。お前さ、あんだけガブガブやってさ(お酒です)、あんだけプカプカやってさ(タバコです)、死なねえとさ、思うんかい?
 その数時間後、私は禁煙を決意した。
 起き出して、即日、ポケットから引き出しの中まで、吸いかけ、新品を問わず、家中、職場中のタバコを「水攻めの刑」に処した。さらにライター類も廃棄。ついでに灰皿も殺戮。灰皿に溜まっていたシケモクも水攻めにする。水攻めにつぐ水攻め。廃棄につぐ廃棄。殺戮につぐ殺戮。私の禁煙は、今度は、今度こそは、本気なのだ。
 そんなわけで、私は、禁煙した。いや、している。といっても、「しない」ことが「する」ことなわけで、特に何かを「する」必要はないのだが、いや、ちょっとだけ「する」をやってみたい。
 体調は良くなった。極めて良好だ。そうすると、タバコのない人生を生きることがつらい。悲しい。体調が良くなったのは禁煙とは何の関係もない。あるはずがない。だから、タバコをやめてまで長生きしようと思ったなんて、ごめん。こんな情けないオッサンになりました。我謝る故に我あり。うーーー。そんなことはどうでもいい。ここだ。ここがロドスだ。ここで飛べれば...。一週間も止めたんだから、一本くらい吸っても大丈夫。ここで、一本吸うと、コレがまた強烈なんだな。ニコチンの抜けた体に「ガツ~ん」と。強力ストレートパンチ。一本吸ったら止まらない。食後の一服、コーヒーで、酒で、仕事の区切りにちょっとだけ。いつでもやめられるよ、だって、禁煙中だもん。今まで、何度失敗したことか...。
 やはり、仕事が一段落したときが最大のピンチ。今までなら一服していたこのタイミング。 何で、仕事は一段落するのだろう。それから食後。何で、食事には終わりがあるんだろう。あとは寝起き。どうして、今日も目覚めるのかな。
 ご経験のある方は、ご高承のことと存じますが、禁断症状は、波状攻撃でやってくる。禁断症状の波状攻撃。大波、小波が打ち寄せる。ガンガン来る。台風中継を思い出す。堤防の突端で腰に命綱まきつけて実況中継してる連中って、前頭葉あるのかな。そんなことは、もう、どうでもいい、タバコが吸いたい。暴風波浪警報発令中だ。
 浜田省吾は、その昔、悲しみは雪のように降り積もると歌った。嘘だ。悲しみは、波のように押し寄せる。大波、小波、また、大波。東海林さだお先生は正しい。禁断症状は、地軸を揺るがすというか、強力な磁石に全身が引き寄せられるというか、全身全霊を、人生そのものを、タバコに引きずりこむのだ。
 そして、私は、今、台風中継の最中にいる。台風の目にタバコがかすんで見える。しかし、目にしみる煙はない。前頭葉、すでに、ない。