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弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2010.05.31

禁酒の毎日

 今年(2010年)の3月26日から禁酒を始めた。酒による記憶喪失(ブラックアウト)が度重なったことがきっかけだが、どうやって禁酒するかの方法論は、極めて大きな問題だ。別に、ただ飲まなければそれでいいはずだが、飲酒が完全に習慣化していると、話はそう簡単ではない。
 なお、自営業の私でも、接待やその他会食等の機会は少なからずあって、それなりに辛いものがある。こないだまで飲んでいたはずなのに、なんだかよく分からない理由で飲むのを断ると、気を悪くしてしまうオッサンとかもいないわけではない。それに、美味い寿司を食べる時は日本酒を飲みたいし、洋食にはやっぱりワインが合うと知っているだけに、周りでお酒を楽しんでいる人たちを見ると、正直に羨ましいと思わずにはいられない。ただ、お酒での失敗談や禁酒を始めたことを話題にすれば場はそれなりに和むものだし、例えば寿司屋では甘くないジンジャーエルを頼んでガリの代わりにしたり、洋食屋では炭酸水をもらってビールやシャンパンの味を想像すれば、それなりに気が紛れるものだ(あくまでもそれなりに、だけど)。
 むしろ、一人の時間を素面でどう過ごすかの方が、問題は大きい。
 禁煙の際もそれなりにハードだった覚えがあるが、酒を止めるというのは、単に口寂しいというだけではない。私は、自宅で一人で飲むということはあまりなかった。そうすると、酒というものは、タバコとは違い、どこかに出掛けて、誰かと一緒に、ある程度の時間に渡って嗜むものになるわけで、要するに生活習慣の一部だ。実際、以前は、仕事を終えると、必ずどこかに飲みに行っていた。毎晩、必ず、だ。そんなわけで、酒を飲まなくなると、日が暮れた後にすることがない。知っている遊び場所なんて、酒を飲むところばかりなので、仕事を終えた後、行くところもない。これまでは、仕事→酔っ払う→帰って寝る→起きて仕事→酔っ払うというのが、基本の生活サイクルだったわけで、すなわち、酒を止めるということは、生活を一変させることになる。加えて、酒を止めることになるなんて、もともとまったく想定していなくて、ある日、ふと試しに止めてみようかなと思い立って禁酒を始めただけのことで、禁酒生活に向けての心の準備も全然できていなかったのである。
 なので、何の計画も予定も準備もなく、突然に、生活スタイルを大きく変更することになったわけで、接待の席での言い訳などより、こちらの対処の方が遙かに大変だった。
 仕事を切り上げても行くところがないので、仕方なくまっすぐ家に帰ることになる。しかし、誰かいるわけでもないし、何かすることがあるわけでもない。したがって、禁酒生活を長続きさせるためには、家で、一人で、飲まないで過ごす時間を楽しいものに(少なくとも、飲まなくてもまあいいやと思える程度には)する工夫が必要になる。
 買っただけで見ないで放っておいたDVDは直ぐに全部見てしまった。
 友人に「ネット将棋が指し放題なら、終身刑になっても構わない」と豪語しているのがいたので、試してみたのだが、どうも面白くない。
 テレビ番組なんてまったく論外でハナから試す気にもなれない。
 そこで読書。あまりに月並みで面白味に欠ける話で誠に申し訳ないが、これは悪くなかった。読書は子供の頃から好きだったが、ここ数年は、主に英語の勉強のため英文のペーパーバックを手にするくらいで、ほとんど本を読んでいなかった。仕事が忙しいんだから、読書は引退後の楽しみにしようと思っていたのだが、何のことはない。酒を止めれば、時間はあるのだ。というわけで、帰宅後の趣味は読書に落ち着いた。
 今のところ、これで何とか、しのいでいる。
 飲みたいと思う夜はある。というか、頻繁にある。少しくらい飲んだって構わないかなと思うこともある。というか、しばしば思う。しかし、頭脳がいつもクリアーなのは悪くない。時間も相当できたし、クレジットカードの請求額の少なさにも驚いた(本当に「桁違い」だった。)。
 もともと、実験的に始めてみた禁酒生活だったが、損と得とを比べてみると決して悪い取引というわけではなく、このまま一生飲まないというのもアリかなと思う。実は、出場を検討していたオーストラリアのゴールドコーストマラソンが、今年は7月4日に開催されるのだが、禁酒を始めた3月26日が、このちょうど100日前だったことに気付き、早速、スケジュールを確保して、大会にエントリーする手続をとった。とりあえず、7月4日までは100日間の禁酒を続けるつもりだ。

 夜の長さに耐えかねて、早寝早起きの生活も始めてみた。
 というわけで、今朝も、いつものとおり5時に起き、iPodでローリング・ストーンズのライブアルバム「シャイン・ア・ライト」を聴きながら、隅田川沿いのテラスを10キロほど走った。シャワーを浴びて、朝食の支度を終えたら、録画したばかりのテレビ東京の朝の経済ニュースを見て新聞を読んでから、徒歩で出勤。
 仕事を終えて帰ると、読みかけの日本語の小説か、英文のペーパーバックのどちらか気の向いた方(たいていは日本語の方を選んでしまうが)を読んで過ごす。10時を過ぎると、本を持ったままベッドに移り、ほどなく眠りにつく。

 ゴールドコーストマラソンまで、あと34日(つまり禁酒67日目)。