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弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2012.02.28

一冊当たり15分間の読書

 子供の頃から、本を読んできた。今にして思えば、よほど暇だったのだろう。おびただしい程の量を読んだ。今でも読書三昧の毎日には憧れるけど、生活の中心には、どっかりと仕事が居座っていて、数年前からはランニングにも結構な時間を割くようになり、その他なんだかんだと忙しく、本を読む時間はもとより、本を選ぶ時間すら充分に持ち合わせがない。でもでもそれでも、ビジネス関連のことはもちろん、文化的なことも、教養的なことも、特に仕事にはあまり関係のない分野について、あれも知りたい、これも知らなければならない、という気持ちを捨てられず、そんなわけで、2年ほど前から、「トップポイント」という月刊誌を購読している。
 この雑誌は、主にビジネス関連の新刊本を、一号当たり10冊選んで、1冊当たり4ページに要約。A4サイズの50ページ足らずの雑誌。ちなみに、広告は一切なし。これが、月に一度、自宅に配達されてくる。
 これを利用すると、新刊本のエッセンスが、1冊当たり15分程度で頭に入る。10冊のセレクトという点でみても、良書が選ばれているのかはよく分からないのだが(この雑誌に掲載されていない新刊本を読む機会がほとんどないので)、片寄りがなく、万遍なく選定されている感じで、エッセンス部分も読みにくさを感じることもない。企画のアイディアも素晴らしいと思うが、完成品の出来栄えも相当に秀逸だ。
 そんなわけで、今朝も、ランニングから帰って来た後、風呂に入りながら、人材の有効活用法についての経営戦略のダイジェストを15分で読了した。ちなみに昨日は、交渉術について米国の大学教授が書いた本だったかな。
 確かに便利。効率的。んで、これは忙しい私には必要な雑誌だ。それは否定しない。それに、このような本の読み方が面白くないというわけでもない。何せ、その本の主要な結論部分を中心にサマリーが作られるわけだから、普通、退屈には感じない(本そのものが退屈なら仕方ないけど)。
 でもね。正直なところ、やっぱり違和感も拭いがたい。
 著者がその本で明らかにしようとしている課題について、どうしてその問題を取り上げたのか、その解決がどうして困難だったのかが経験談を含めて語られた上で、アプローチ方法のアイディアを提示し、実践し、失敗し、最終的に処方箋を示す。読者は、終着駅まで導かれる中で、筆者に学び、共感しあるいは反感を覚え、時には中途で読む価値のない本と知る。私は(誰でもそうだろうと思うが)、長い間、そういう本との付き合いをしてきた。厚い本もあれば、薄い本もあったけれど、読み進むスピードはあまり変わらなかった。1日で読み終わることもあったけど、多くの場合は数日以上、長ければ1ヶ月以上かかって読んだものだ。
 1冊当たり15分間の読書は、たとえて言うならば、旭山動物園にだけ瞬間移動してそれで終わる北海道旅行のようなものだ。企画して予約して準備して移動してなんてことはもちろんのこと、小樽の運河も、札幌のビール園もすっ飛ばすような旅行のダイジェスト版。これだと、旅情なんてものはかけらもない。旅の思い出は、列車の中で弁当をこぼしたことやら、同行者と些細な喧嘩をしたことやら、その他いろいろと結び付いて初めて味わいを残すわけで、15分の読書では、結論への到達スピードが速すぎて、納得感を得にくいだけでなく、話題の重要性にもピンと来ないことも多く、得られた知識が血肉にしみ込む感じがない。
 しかし、そうは言っても、今の私に月に10冊もの新刊本を読む時間などあるはずもない。だいたい、仕事に関係のない本は、月に1冊ずつ読む時間すら確保できるか疑問なのだ。私にとっては、この「トップポイント」の定期購読を止められる日が、幸せな読書生活の始まりとなるのだろうが、いつか、そんな日は来るのだろうか。