銀座数寄屋通り法律事務所[旧 中島・宮本・溝口法律事務所] >HOME

弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2021.11.26

ギターの楽しみ

 もう3年近く前。アコースティックギターを買いました。当時48歳。忘年会で招かれたお客様のご自宅にピアノがあり、「子供がもう弾かないから自分が弾くようになった」と言って、少し恥ずかしそうに、でも少し嬉しそうに、何曲か弾いてくれたのがきっかけでした。楽器の演奏って、自宅での時間の過ごし方としてなかなかいいな、老後の趣味にもなるなと思い、そう言えば、その昔、ギターにチャレンジしたことがあったのを思い出した次第です。ギターに初めて触った頃にまで遡ると話が長くなるのですが、10代の頃(当時はバンド・ブームなんてありましたよね。同世代の皆様、覚えていますか?)に少しだけギターを弾いてみたものの早々に諦め、それから、30代の前半にエレキギターを買ったものの仕事の忙しさからあまり時間が取れず、数年で手放してしまったことがありました。
 もともと音楽は大好きなのですが、聴くだけで、演奏経験は、ギター以外の楽器も含めほぼゼロ。そんなところからオジサンの再チャレンジは始まりました。入門者向けの書籍を買ってきて練習したり、練習方法を解説するネットの情報に右往左往したり、ギター教室に通ってみたり、エレキギターも購入して、ドラムマシンやらエフェクターやらといった機材をそろえたり、紆余曲折がありました。少し話はそれますが、機材や教材の進化や価格の下落には目を見張るばかりです。例えば、その昔は、チューニングも音叉を使って自分の耳で確かめながら作業していたものですが、今では1000円未満で買える電子チューナーを使えば、あっという間に終了です。教材もネットの動画を中心に無料でアクセス可能なものがあふれんばかりで、若い頃に、これほど充実した環境を享受できていればなあと思わずにはいられません(熊谷達也の小説「オヤジ・エイジ・ロックンロール」でも、中年になってギターを再開した主人公が、周辺機材の進化に驚くエピソードが随所に散りばめられていて、共感の笑いを誘ってくれます)。
 再チャレンジの開始から3年近く経ち、ギターの練習は、すっかり生活の一部に定着しました。自宅は狭いマンションの一室ですが、エレキギターも、大きな音を出さなければ大丈夫(と思います)。深夜や早朝には、ヘッドホンを使って練習です。
 オンラインながらギター教室も利用しています。週に一度、マンツーマンのレッスンで、エレキギターとアコースティックギターを代わる代わる受講していて、講師とは、PCの画面越しにやり取りしています。エレキギターはその教室指定の教材を、アコースティックギターは主に私の用意したブルースの楽譜を使って、レッスンは進みます。
 毎朝の出勤前、夕方の帰宅後、主にレッスンで課題となっている曲の練習に取り組みます。楽譜を睨みつけ、ゆっくりと指の運びを確かめながら弾き、最後まで弾けるようになると、徐々にテンポを指定のスピードまで上げていきます。そうすると、指がもつれたりしてちゃんと弾けなくなり、メトロノームに八つ当たりです。
 曲を習得してどうするかというと、これが何もしません。ただ自分で弾いて楽しんでいるだけ。誰かに聞かせることはありません。演奏の録音や録画を(匿名でも)ネットにアップすることもありません。ましてライブや演奏会などで演奏を披露するなんて考えられません(今のところは)。ただ自宅で一人で弾いてるだけなのですが、それでも続けられるのは、なかなか思い通りに行かないことを、あーでもない、こーでもないと忍耐と工夫を重ねながら、一つ一つ乗り越えていくというプロセスそのものに面白みがあるからだと思います。ロールプレイング・ゲームにはまる人たちの気持ちってこんな感じなのでしょうか。もちろん、音楽が好きだからということもあるのですが。
 練習中の曲をドラムマシンに合わせて伴奏パートを演奏して、録音。それを再生しながら、リードギターを弾いたりしていると、下手くそなりに朝からご機嫌です。夜も寝るまでご機嫌です。しかし、これほどまでに無邪気に無反省に楽しむことができるのは、人前で弾く機会がないから、拙い技術を人前でさらすリスクがないからこそなのだろうと思っていて、やはり自宅での一人演奏という楽しみ方を続けることになりそうです。