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ゴルフ情報の法律問題

ゴルフ会員権を巡る人々

弁護士 宮本 督

目 次

1.ゴルフ会員権と昨今の話題
2.預託金を返せないゴルフ場とその対策

(1) 預託金据置期間延長
(2) 経営委託または営業譲渡
(3) 株主会員制への転換
(4) 民事再生法

(追記)
(追記2)

1. ゴルフ会員権と昨今の話題

 ゴルフ会員権など、ゴルフ場に関する話題が、よくマスコミで取り上げられているのを目にした方も多いと思います。多くは、後ろ向きの暗い話題です。
 バブル経済華やかなりし頃、ゴルフ場を巡る話題は、こんなことではありませんでした。ステイタスシンボルとして、ゴルフ会員権を購入された方も多かったと思いますし、接待のため、会員でないとゴルフ場の利用予約が採れず、会員権を購入された企業も多かったと思います。ゴルフ会員権についての話題は、成功者に対する羨望や、その裏返しとしての成金趣味に対する嫌味が感じられるものがほとんどでした。
 それが、今では、ゴルフ場の倒産や会員権売買にからむアンダーグランドの方々の出現等が報道されるだけです。
 どうしてこんなことになっているのでしょうか。
 ゴルフ場のシステムにもいろいろありますが、多くのものは、預託金会員制ゴルフクラブとなっています。会員は、ゴルフ場経営会社との契約によって、そのゴルフ場でのプレーを約束されますが(優先的施設利用権=プレー権)、その代わり、入会金や年会費を納める他、預託金(その多くは1000万円以上)をゴルフ場に預け、それを10年間以上据置く約束をします。そして、ゴルフ会員権は、マーケットで取引され、預託金額面1000万円の会員権が、2000万円や3000万円、場合によっては、1億円を超える値段で売買されてきました。
 しかし、バブル経済の崩壊とその後の不況は、ゴルフ会員権市場に大打撃を与えました。現在では、1000万円の会員権が20万円以下で取引されている例も決して珍しいことではありません。
 すると、ゴルフ会員権を持っている方は、誰も、市場で換価しようとはしなくなりました。据置期間が経過したら、ゴルフ場に預託金の返還を請求するようになったのです。
 しかしながら、ゴルフ場には、この返還に耐え得る体力はありません。資産隠しとか、いろいろな臭い噂の耐えないゴルフ場もないわけではありませんが、ゴルフ場というのは、一般的に、会員から集めた預託金でゴルフ場を造成し、維持していきます。そして、毎年の営業状況がよければ、返還に要する資金を貯えることもできそうですが、大抵のゴルフ場は赤字経営で、税引後利益が5000万円を超えるゴルフ場など、日本には数箇所しかありません。
 簡単なシュミレーションをしてみましょう。ゴルフ場の会員数は、18ホールのゴルフ場で1000名から2000名程度です。そして、預託金が一人あたり1000万円だったとすると、10年後に返すという約束をして集めたお金は全部で100億円から200億円ということになります。2000万円だったとすると、200億円から400億円になります。そして、ゴルフ場の用地購入費と建設費は、バブルの頃は、概ねこれくらいかかりましたから、預託金を手元に残したままオープンしたゴルフ場はほとんどあり得ません。これに対して、年間の利益はどんなに多くても5000万円です。すると、10年間、これを預託金の返還のためにプールしても5億円しか残らない計算になります。
 要するに、ゴルフ場は、10年後に預託金を返すと約束してはいたものの、返す予定などもともとなかったのです。ゴルフ場としては、会員は、ゴルフクラブをやめたくなったら、ゴルフ場に預託金を返還してくるなどとは考えず、マーケットで売ってくれる(そして、その方が高く売れる)と思い、また、ゴルフ会員権を買う人も、ゴルフ場に返済能力があるかどうかについてはまじめに考えることはなく、お金に困ったら、市場で売ればいい(そして、その方が高く売れる)と考えていたのです。
 しかし、契約の上では、10年後、ゴルフ場は1000万円を返還するということになっています。バブルから10年経った今、市場価額は20万円程度です。あなたならどうしますか?誰でも、ゴルフ場に返還を要求します。
 そして、ゴルフ場は返還するお金を持っていませんから、返してくれといわれても返すことはできず、結局、裁判になってしまいます。ゴルフ場によっては、100件以上の裁判を抱えているところもあり、そうすると、倒産したり、いろいろ新しい方法を画策したりするようになり、これが、現在、巷をにぎわしているゴルフ場の預託金問題なのです。

2. 預託金を返せないゴルフ場とその対策

(1) 預託金据置期間延長
 預託金を返すことのできないゴルフ場の防衛のための常套手段が、預託金の据置期間を延長するというものです。
 ゴルフ場と会員との契約では、ゴルフクラブの「会則」が、契約書にあたります。そして、多くのゴルフ場の会則には、「天変地異、その他、ゴルフクラブの運営上やむを得ない事由が発生した場合には、ゴルフクラブ理事会の決議により預託金の据置期間を延長することができる」等の定めがあります。
 そして、ゴルフ場は、バブル経済の崩壊とその後のデフレ現象による、会員権相場の低落と営業収支の悪化を、「ゴルフクラブ運営上やむを得ない事由」であるとして、当初10年間とした預託金の据置期間を、さらにたとえば10年間延長するのです。
 この措置は、当初の契約上、据置期間の延長があり得るとされていて、その契約に従って、据置期間を延長したのだから、有効であるとの素朴な考え方もあります。
 しかし、裁判例の多くは、この効力を認めません。たとえ、契約上、据置期間の延長があり得ると定められていても、預託金返還請求権は、ゴルフ会員契約を結んだ会員にとっては重要な権利であって、それを、ゴルフ場側の判断で一方的に不利益に変更することはできないというのがその理由です。そして、ゴルフ場経営者ではなく、ゴルフクラブ理事会が判断するという言い訳も受入れてくれません。ゴルフクラブ理事会は、ゴルフ場経営者と同視できる性質のものだからです。
 若干わかりにくいかもしれませんが、最高裁判所昭和61年9月11日の判決(判例時報一二一四号六八・所収)を紹介しておきます。この判決は、「本件ゴルフクラブの会則は、これを承認して入会した会員と上告会社との間の契約上の権利義務の内容を構成するものということができ、会員は、右の会則に従つてゴルフ場を優先的に利用しうる権利及び年会費納入等の義務を有し、入会の際に預託した預託金を会則に定める据置期間の経過後に退会のうえ返還請求することができるものというべきであり、右会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を変更することにほかならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできないものと解すべきである。」としています。
 これに対し、平成10年から11年にかけて、東京地方裁判所で、据置期間の延長を有効とする判決が5つ言い渡されました。実は、このうちの2つは、私自身がゴルフ場側の弁護士を務めた事案なのですが、5つの事件とも高等裁判所に控訴され、うち3つは、ゴルフ場側が預託金を返還することで和解し、2つは、ゴルフ場側の逆転敗訴となって、議論の混乱には完全に終止符が打たれました。

(2) 経営委託または営業譲渡
 そうすると、ゴルフ場は、預託金返還請求訴訟では敗訴確実です。今でも、裁判の席上、据置期間延長は有効と主張するゴルフ場は少なくありませんが、単なる時間稼ぎにしかならないことは、当のゴルフ場(ゴルフ場側弁護士)自身、充分承知の上です。
 そして、ゴルフ場は、時間を稼いでいる間、ゴルフ場の営業を、他の会社に移転してしまいます。預託金返還請求訴訟に敗訴すると、ゴルフ場の売上金に強制執行されてしまいますので、ゴルフ場の営業によって生み出される売上金は、このゴルフ場の営業を、トンネル会社を作る等して、そのトンネル会社に移したことにしてしまうのです。そうすると、ゴルフ場は、預託金返還請求訴訟で敗訴したとしても、強制執行を受けなければ財産をとられることはないのですから、訴訟の勝敗は関係ないということになります。
 しかし、このような措置は、やり方によっては、刑法で処罰される強制執行免脱罪にあたることもあり得ます。私が相手方にしたゴルフ場の中にも、強制執行免脱罪の成立可能性が高いと思われるところをいくつか目にしました。
 また、このような措置は、会員の預託金返還請求権を実際上、行使できなくするものですから、会員に対する不法行為(民法709条)にあたるものとして、営業を譲りうけた会社や、その会社の役員、また、もともとのゴルフ場経営会社の役員たちに、損害の賠償を請求する訴訟も提起されていて、会員側の勝訴判決も出ています。

(3) 株主会員制への転換
 このように、ゴルフ場は、結局、預託金の返還義務から逃れることはできず、このままでは、破綻が避けられません。
 そして、考えてみますと、もともとゴルフ場の預託金は、当初から、会員の出資金のような性格を持つものだったともいえます。カントリークラブシステムの原点は、皆でお金を出し合い、ゴルフ場を造り、ゴルフを楽しむというものです。
 そこで、預託金会員制ゴルフ場を、株主会員制ゴルフ場に転換する試みが行われています。
この方法は、簡単に説明しますと、新たに設立された株式会社(新会社)が、ゴルフ場(旧会社)に対する預託金会員権の現物出資を募り、旧会社に対する預託金返還請求権を取得し、旧会社が預託金の返還に代えて新会社にゴルフ場施設を譲り渡す、という流れになります。
 この株主会員制への転換は、預託金償還問題を根本的に解決する唯一の方法ともいえるものですが、会員を株主とする株式会社となることで、ゴルフ場経営者が経営権を失う恐れがあるということで、この採用には踏み切れないでいるゴルフ場経営者も多く、この試みも、全国でも数例しか行われてはいませんが、ゴルフ場の経営能力を持つ人は、従前の経営者しかいないのが実際ですから、経営陣の交代につながることはそれほどなく、経営者たちの誤解がなくなれば、今後、広く行われる方法として定着していくと考えられます。

(4) 民事再生法
 平成12年4月、民事再生法という、新しい倒産法が施行されました。この法律は、従来の和議法に代わるもので、大手百貨店のそごうが、申立をしたこともあって、一気に有名になりました。
この法律も、倒産会社の用意する「再生計画」を債権者の多数決で成立させるかどうかを決めるという、制度の大枠は、従来の和議法と変わりません。しかし、手続開始申立ての要件が緩和され、再生計画成立の要件を緩和して再生に踏み出しやすくされている等、ゴルフ場にとっては使い勝手のよい法律です。
 今後は、この法律による、預託金問題の解決という手法も広く行われていくことになると思います。

(2000.10.1 弁護士 宮本 督)

(追記)
 平成12年末から平成13年にかけ、次のとおり、預託金の据置期間の延長を有効とする判決が相次いで言い渡されました。

(春日居ゴルフ倶楽部)
[1] 東京地方裁判所八王子支部平成12年11月27日判決
[2] 東京地方裁判所平成12年12月19日判決
[3] 同裁判所同日判決
[4] 名古屋地方裁判所平成13年2月21日判決
(東通ロイヤルカントリークラブ)
[1] 浦和地方裁判所越谷支部平成13年2月9日判決
(瑞陵ゴルフ倶楽部)
[1] 横浜地方裁判所平成13年4月27日判決

 これらの判決例の理論的な問題性についての詳細な論考は、別の機会に譲りたいと思いますが、私としては、これらは、控訴審(高等裁判所)では維持されないだろうと考えています。
 ただし、これらのゴルフ場の預託金据置期間の延長に関する会則の文言は,「(預託金を)返還することが著しく困難であり,かつ,これに応じた場合他の会員の施設利用に悪影響をおよぼすおそれのある場合」(春日居ゴルフ倶楽部),「本件ゴルフクラブ運営上やむを得ない事情がある場合」(東通ロイヤルカントリークラブ)、「天変地変又は社会情勢、経済状況の著しい変化あるいは会社の経営を円滑に遂行するため必要のあるとき及び会員の会員資格保証金返還請求により本倶楽部の運営が著しく困難になり他の会員の本ゴルフ場施設利用に悪影響を与える場合」(瑞陵ゴルフ倶楽部)と,極めて広範でありながら、具体的といえるものが用意されていて、しかも、延長期間中の経営努力により、延長後には預託金の返還が可能となることが条件とされているものがほとんどです。
 これらの判決例は、現時点では、やはり例外的なものと考えざるを得ないでしょう。

(2001.5.24 弁護士 宮本 督)

(追記2)
 「2.預託金を返せないゴルフ場とその対策」として、 (2)に、「経営委託または営業譲渡」を挙げていました。
 この点について、平成16年2月20日、ゴルフ場の営業譲渡を行う場合で、営業譲渡を受けた会社が、従前とおりのゴルフクラブの名称を利用し続けている場合、営業譲渡を受けた会社も預託金返還義務を負うという最高裁判所の判決が出されました。
 これは、営業譲渡がされた場合に、商号(ゴルフ場の名前ではなく会社の名前)が使われ続ける場合は、営業譲受人も従前の債務を引き受けなければならないという商法26条を類推したもので、「預託金会員制のゴルフクラブが設けられているゴルフ場の営業においては、当該ゴルフクラブの名称は、そのゴルフクラブはもとより、ゴルフ場の施設やこれを経営する営業主体をも表示するものとして用いられることが少なくない。」ことがその理由です。
 ただ、商法26条は営業譲渡がされた場合について規定するもので、この判決も営業譲渡がされていた事例についてのものです。営業譲渡ではなく、経営委託等の場合にも、これと同列に捉えることができるのかについては、なお、高等裁判所レベルの判例が統一されていない状況にあり、今後の判例の動向が注目されます。