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企業と法律

労働

続発する労使紛争と企業の対策
(近代中小企業 02.7)

弁護士 宮本 督

「個別労使紛争」の増加と内容の多様化

 労働関係紛争、労使紛争といえば、かつては労働組合と事業主との間の紛争、つまり「集団的労使紛争」が中心でした。このような集団的労使紛争については、労働組合法と労働関係調整法によって、労働委員会が、労働争議のあっせん、調停及び仲裁を行うことで、その解決が図られてきました。しかし、集団的労使紛争は、労働組合の組織率低下等の事情もあって減少傾向にあります。実際、全国の地方労働委員会に係属した労働争議調整事件の件数は、昭和四〇年代から五〇年代にかけてピークを迎えて以後は続落し、最近は、景気の低迷の影響もあって下げ止まり傾向が見られるものの、件数自体はピーク時の三分の一程度に止まっています。
 これに対し、最近、その数が増加しているのが、労働者個人と事業主との間の紛争、つまり「個別労使紛争」です。その背景には、経済社会情勢の変化に伴い、企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化の進展等があると指摘されていますが、特に、いわゆるバブル経済崩壊後の不況によって企業のリストラが進展し、それに伴い解雇や出向、配置転換や賃下げなどの問題が生じ始めた頃からは、激増の傾向にあります。司法統計等によりますと、個別労使紛争の解決のため裁判所に持ち込まれる案件数は、通常訴訟、仮処分ともに、ここ一〇年で倍増以上の伸びとなっていて、実際、筆者の所属する法律事務所への相談も(企業側からも労働者側からも)頻繁にされています。また、この個別労使紛争は、件数が増加しているだけでなく、集団的労使紛争と異なり、その内容が多種多様であることもその特徴とされます。主として、企業のリストラによると思われる解雇、労働条件の引き下げ、出向、配置転換に関わる紛争等々の他、募集や採用に関するトラブル、職場におけるいじめ、セクシャルハラスメント等々、様々な紛争が生じているのです。
 本稿では、いわゆる労使紛争のうち、この個別労使紛争について、昨年から施行されている「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」の概要を含め、紛争解決のために用意される諸制度について概観した上で、企業としての対策(事前準備と事後処理の方法)を簡単に示してみたいと思います。