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企業のための民事再生の法律相談

弁護士 宮本 督

2. 再生開始決定まで

(10) 再生開始決定後の登記の効力

 それでは、不動産の登記についてはどうでしょうか。例えば、不動産の買主が、売主について民事再生開始決定がされたことを知り、慌てて所有権移転登記をするような場合です。
 民事再生法は、不動産に関して再生手続開始前の原因に基づく登記を再生手続開始決定後に行ってもその効力を主張することができないと定めています(45条1項)。本来、不動産に関する登記は第三者に権利を主張するための対抗要件に過ぎませんから、不動産について売買契約を締結し、買主が売買代金を支払って引渡しを受ければ買主はその所有権を取得し、所有権移転登記が未了であればその登記手続を売主に求めることができるはずです。しかし、民事再生法は、民事再生手続開始決定により、再生債務者の財産に対する一種の包括的な差押えがあったとみて、開始決定後の財産を総債権者のために確保することにしているのです。その結果、たとえ開始決定前に再生債務者から不動産の所有権を取得していても、移転登記を備えていない買主は、開始決定後に再生債務者に対しその所有権を主張することができず、したがって、移転登記請求もできません。仮に、再生債務者から開始決定前に所有権移転登記手続に必要な書類(権利証・売渡証書・印鑑証明書等)の交付を受けていたとしても、開始決定までに移転登記手続(法務局における受付)を完了していなければ、たとえ開始決定後に登記手続を行ったとしても所有権を主張することはできません。同様に、再生債務者から不動産について抵当権の設定を受けていたとしても、開始決定までにその登記手続が完了していなければ、抵当権を主張することはできません。
 このような規定は、会社更生法58条、破産法55条と同様です。ただし、買主である登記権利者が再生手続開始の事実を知らないで登記をしたときは、その権利を主張することができますし(45条1項但書)、再生手続開始前に仮登記をしていた場合は、開始決定後においてもその権利を主張して仮登記に基づく本登記を求めることができると考えられています。