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企業倒産

企業のための民事再生の法律相談

弁護士 宮本 督

2. 再生開始決定まで

(8) 再生債務者の公平誠実義務

 民事再生手続においては、再生手続開始後も再生債務者は業務遂行権と財産の管理処分権を有しています(DIP=Debtor In Posession型手続。38条1項)。つまり、開始決定後も依然として従来の経営陣が経営権を保持することが原則です。これは、開始決定後は、管財人に事業の経営権と財産の管理処分権が帰属する会社更生法などとの違う民事再生法の大きな特徴で、米国倒産法第11章(いわゆるチャプターイレブン)をモデルとして制定された制度です(ただし、民事再生手続においても、裁判所が、再生債務者の業務及び財産に関して管財人による管理を命ずる処分(64条)をした場合には、再生債務者は、業務の遂行権も財産の管理処分権も有しません。)。
 しかしながら、民事再生法は、再生債務者に対し、再生手続が開始された場合、債権者に、公平かつ誠実に、自らの権利を行使し、かつ、再生手続を追行する義務を追行する義務を負わせています(38条2項)。また、民事再生規則1条によれば、再生債務者は、再生手続の円滑な進行に努め、再生手続の進行に関する重要な事項を再生債権者に周知させるよう努めなければなりません。したがって、例えば、再生債務者が、業務遂行や財産の管理処分をするにあたり、一部の債権者に新たな担保を提供したり、再生計画によらずに再生債権の弁済をしたりすることは公平義務に違反し許されません。また、総債権者の利益と再生債務者の利益が相反したとき、再生債務者や第三者の利益を図ることは誠実義務に違反し許されません。そして、再生債務者が、公平かつ誠実にこれらの権限を行使しないときは、裁判所が、再生債務者からこれらの権限を奪って管財人による管理を命ずる処分を発令することになります(64条1項)。
 本来、民事再生法は、再生債務者の事業再生に向けての自主的活動を尊重することを基本理念とするものです(規則1条3項)。再生債務者としても、自主再建を図ろうとするのであれば、総債権者の利益をも代表して、再生債務者の業務を遂行し財産の管理処分を行っていることを自覚し、不公平な偏頗行為をしたり、自己や第三者の利益を図ったりしないように注意し、弁護士である申立代理人のアドバイスに従うことが必要になるでしょう。