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弁護士 宮本 督

エッセイ:
to be a Rock and not to Roll

2015.01.30

身だしなみ

 私の職業は弁護士なのだが、長い間、スーツを着ることもネクタイをすることもなく、いわゆるカジュアルウェアで仕事を続けてきた。
 カジュアルウェアといっても、あなたが今思い浮かべたかも知れない、そんなお洒落な感じでは全然ない(思い浮かべていませんか。あーそーですか)。ブランドの服や金の張る靴にはまるで興味がなく、服装選びで重視していたのは、イージーさと気楽さ。そんなわけで、私は、クライアントとの会議にも法廷にも労働組合との交渉にも、いつだって、安カジュアルな格好で、軽くお出掛けしていた。
 しかし、40歳も超えてくると、いつまでも反抗期の子供みたいなことは言っていられなくなってきた。実際、街を歩いていて、猫背のみすぼらしいオッサンがこっちを睨んでるなってことがあり、でも、よくよく見てみると、それは実は鏡に映った自分だったとわかった時には本気で落ち込んで(作り話のようだけど、ホントの話)、せめて服装くらいパリッとしないとダメかなと思うようになった。
 で、スーツだ。しかし、あまりに久しぶりで、どこで何を買ったらいいのか分からない。もちろん、コ○カとか英○屋とか、そんなところで売っているらしいことは知っていたけど、私くらいの年齢と立場で、いくらくらいものを買えばいいか、どこで探せばいいのか、皆目、見当もつかない。そんなある日、馴染みのバーに行ったら、同じ年齢で同じ大学の卒業生で、政府系機関に勤務している友人が独りで飲んでいて、いい機会だぜっと思い、単刀直入に、「あのさ、そのスーツ、どこで売ってるの?」と尋ねたら、いきなり「馬鹿にしてるのか!」と怒られたりして、「いやいや、ごめんごめん、そうじゃなくてさ、かくかくシカジカでさ」と丁寧に説明して、ようやく秘密を聞き出すことに成功し、とりあえず何着か、言われた通りに、デパートで「イージーオーダー」を発注するところまでこぎ着けた。
 これが2年くらい前。それ以来、夏の間以外は、一応、スーツにワイシャツで過ごしていたのだが(ノーネクタイ)、昨年の秋、お客さんの会社の役員会に出席することになっていた前の日に、その会社の総務部の若手社員さんから電話があり、「質問があるのですが、明日は、ネクタイをして来ていただけるのでしょうか?」と。「それって、質問じゃなくて命令じゃないの?」と思ったのだが、この若手総務さんは、フルマラソンを3時間以内で走る記録を持っているらしく、そうすると、私よりはるかに身分が上。仕方なく、ネクタイを締めることに。その際、事務所の同僚に「いい御身分ですね」などと散々に嫌味を言われながら、ネクタイの締め方を習ったのだが、役員会の朝、自宅で独りで何度やってみてもネクタイの先端が腹より下に行くことはなく本気の半泣き。
 と、いろいろあったわけですが、ボク、最近は、スーツを着てます。そして、ステップアップ!なんと、ネクタイもしています。44歳です。弁護士です。千葉県出身です。趣味はマラソンです。子供はいません。いろいろ関係ないか。でも、頑張って生きています。

 来年の今頃は、スーツの胸にポケットチーフが見えるかも知れません。シャツの袖にカフスボタンもしているかも知れません。方向性を間違えて、耳か鼻にピアスを光らせているかも知れません。でも、頑張って生きています。バカにしないで、指をさして笑ったりしないで、どうか温かく見守ってやって下さい。

宮本の本棚から

「プレップ労働法」森戸英幸

 労働法の初学者向け入門書。大学の学部生程度を対象にした本と思うが、労働法と呼ばれる法分野の全般について分かり易く記述されていて、ややこしいことを、ここまで平易に解説できることの力量に感服。大学生だけじゃなく、司法試験の受験レベルとしても充分だと思うし(それは言い過ぎかな)、企業の人事労務担当者にも一読を勧めたいところだが、恥ずかしい告白をすると(本当に恥ずかしいのだが)、私って、弁護士になって約18年、会社側でも労働者側でも、相談レベルまで含めると、これまで優に100件を超える労働事件に携わってきたはずだが、この初学者向けの入門書の中に、知らなかったことや誤解していたことが、合計して10個以上はあった。

 そんなわけで、実は、弁護士さんや裁判官さんが、こっそりと労働法全体の復習するのにも使えると思う。大丈夫、読むのに一日もかからない(弁護士や裁判官なら)。実務家って、取り扱う一個一個の事件に関連する問題については、いろいろ深く勉強するわけだけど、法分野全般を見渡して勉強しなおす機会って、なかなかないからね。